病因:孤発性・家族性パーキンソン病で障害される中脳
黒質のドーパミン細胞内には、レヴィ小体
(Lewy小体)と呼ばれる細胞内封入体が蓄積します。
その主たる構成要素であるα-シヌクレイン
(140アミノ酸からなるタンパク質)で、細胞内の
神経伝達物質輸送に関係しています。
α-シヌクレインの構造が変化(リン酸化)して細胞
膜を障害する事、ミトコンドリアに変化が起こる事、
小胞体の機能障害を起こす事。細胞内の
ユビキチン・プロテオソーム系を障害して不要な
タンパク質の分解を阻止する事など、パーキンソン
病の病因としていくつかの仮説が提唱されています
。また、遺伝子異常により異常蛋白質が作られ事や
環境因子が影響することも明らかとなっています。
2003年 臨床病理的研究で発表された、Braak(ドイツの病理学者)のBraak仮説では、抗α-シヌクレイン抗体を用いて高齢者の中枢神経系におけるLewy小体の分布を詳細に検討し、Lewy小体は、まず嗅球に出現、迷走神経背側核(延髄)、
視床と、その後、下部脳幹(橋)、中脳 黒質、扁桃体へ上行進展して運動症状を発現させる。
さらに前脳基底部(basal forebrain)、側頭葉皮質、大脳
新皮質へと上行拡大して、精神症状など様々な非運動症状
に関係すると考えられている。また、Zaccai博士の報告に
よると扁桃体に優位にLewy小体が分布しているとの報告も
ある。
Braak仮説:
嗅粘膜と腸管の上皮から病原体(neurotropic pathgen)が侵入して、Lewy小体を形成してパーキンソン病を起こす。病原体の侵入経路は、
1)嗅粘膜 → 前嗅神経核 → 中枢神経系へ。
2)腸管粘膜 → 粘膜下神経叢 → 副交感神経節前線維 →
迷走神経背側運動核へ。
パーキンソン病は、Lewy小体の出現に関連した神経変性疾患で、変性する神経細胞の部位は、
・パーキンソン病:黒質、青斑核、迷走神経背側核、
マイネルト基底核。
・Lewy小体認知症:大脳新皮質、辺縁系、扁桃核。
・自律神経症: 末梢自律神経系。
現因:黒質の神経細胞の変性が起っている事によって
ドーパミンが十分な量が作られなくなると神経同士
の連絡に不具合を生じる事でパーキンソン症状を
起こすと考えられています。(運動障害)なぜ細胞
が変性するかは解明されていませんが、遺伝子に
よる蛋白質異常、ミトコンドリアによる機能不全、
酸化ストレス(活性酸素)、神経細胞の蛋白質分解
異常により神経変性すると言う研究発表もありますが
原因不明です。
パーキンソン病患者の黒質細胞では、好酸性したLewy小体(蛋白質の固まり)を確認されており、異常蛋白質の細胞内蓄積を認める事から、Lewy小体を構成するアルファーシヌクレイン(α-synuclein)の過剰蓄積を認め、不要蛋白質の分解機能(ユビキチン・プロテアソーム)のUCH-L1(Ubiquitin
carboxy-terminal hydrolase L1)と呼ばれる加水分解酵素の低下による
細胞内分解機構の障害が、ドーパミン産生細胞脱落の原因として指摘されています。
アルファーシヌクレインの蓄積は、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患(シヌクレインパーチ)の原因とされドーパミン量が20%を下回ると発病すると考えられており、
別の神経細胞とのバランスが崩れる事も症状の理由とされています。
また、マイネルト基底核によるアセチルコリン産生減少により記憶の減衰(記憶障害)にも影響するとの指摘もあります
病理的所見では、神経細胞の脱落と伴に、神経細胞の中にα-シヌクレインの凝集(レヴィ小体)が形成される。中脳 黒質のほかに、動眼神経核、青斑核、迷走神経背側核などの脳幹の諸核に広汎に形成される。
大脳では、マイネルト基底核、視床下部、扁桃核の神経細胞内にも形成されやすい。
末梢神経系では、交感神経節、副交感神経節、腸管の神経叢副腎にもレヴィ小体の出現が見られる。
細胞内だけでなく神経突起内にも形成、細胞外にも放出されるレヴィ小体が存在する。
パーキンソン病患者の黒質では、グルタチオン(アミノ酸からなるトリペプチド)・フェリチン(鉄分を貯蔵する蛋白質)が減少。また、黒質 → 線条体の神経細胞で、ミトコンドリア複合体の活動が減少しているとの報告もありますが、
本質的に不明なままです。現在のところ、PDの神経変性過程には、細胞自律的機序と非細胞的機序の両者が複合的に関与すると考えられています。
細胞自律的機序としては、ミトコンドリアの生体エネルギー産生の変化、カルシウムのホメオスタシスの調節異常、ミトコンドリア代謝回転異常などが提唱されています。
非細胞的自立機序としては、ミスフォールド蛋白質の
プリオン様挙動や神経炎症が挙げられ提唱されています。
パーキンソン病における細胞死は病原性イベントの多因子が段階的(カスケード)により引き起こされていると示唆されています。
パーキンソニズムとジストニアを中心とした神経症状の原因遺伝子は、ATP13A2とPLA2G6が関与。
ATP13A2蛋白質は、リソソーム内のpHの維持を行い、
脂質代謝において脂質のリサイクルに関与している。
リソソームは細胞内の小器官、なかでもミトコンドリア
に鉄を供給する役割をもっており、リソソームに 障害
があるとミトコンドリアの鉄代謝に影響を及ぼすと考え
られる。
他にも糖脂質を分解するライソゾーム酵素、グルコセ
レブロシターゼ(GBA)の欠乏によるゴ-シェ病
(Gaucher)を発病し、パーキンソニズムを合併しやすく
鉄の沈着もみられている。
PLA2G6蛋白質は、ミトコンドリア内膜のリン脂質
(phospholipid)代謝に関与し、脂質二重膜の維持を行って
いると考えられている。
GBA(遺伝子)の変異をともなうPD剖検脳のレヴィ小体においてGBAの免疫原性が報告され、変異型GBAは凝集能が高く
、このことが原因でα-シヌクレインの凝集を促進し、神経変性を促進するという可能性が考えられている。
近年ゲノム解析により、GBAの遺伝子変異が弧発性シヌクレイノパチーの危険因子として作用することが確定された。GBAがアミノ酸変異により構造変化を起こして凝集しやすくなる結果、α-シヌクレインの凝集を誘発しレヴィ小体に至り神経変性に成ると考えられている。
神経細胞の変性、脱落、死を抑える成分としてビタミンE・C・βカロチンが有効と言われています。
病態:パ-キンソン病は、黒質 緻密質のド-パミン分泌細胞
の変性が主な原因です。 黒質 → 線条体の変性、脱落
が 起こり脳内のド-パミン量(DA)低下が起こる。 また、前脳基底部のアセチルコリン産生量(Ach)も
低下する。
(ドーパミンが減少する事で、アセチルコリン産生
するコリナージック細胞の活動異常)
ドーパミンを分泌する黒質は、運動神経系に重要
な延髄、脊髄につながる大脳基底核にあります。
アセチルコリンを産生する前脳基底部は、記憶に
重要な大脳皮質、海馬に繋がり放出しています。
大脳基底核の運動制御機構に基づいて、パーキ
ンソン病の病態を説明すると、パーキンソン病とは
、黒質 緻密部 のドーパミン細胞が変性・脱落する
ことによって線条体のドーパミンが枯渇し、無動、
固縮、振戦を主とする 運動障害が発症する疾患
です。その際、
D1受容体を介する線条体の直接路細胞への
興奮性入力が消失することにより、これらの細胞
の活動性が減弱し、その結果、淡蒼球 内節の
神経活動は亢進します。 他方、
D2受容体を介する線条体の間接路細胞への抑制
性入力が消失することにより、これらの細胞の
活動性が亢進し、その結果、淡蒼球 外節の神経
活動の減弱と、それに続く視床下核の神経活動の
亢進が起こり、淡蒼球 内節の神経活動は亢進し
ます。
この様に、パーキンソン病における線条体での
ドーパミンの枯渇は、直接路と間接路のいずれに
おいても、淡蒼球 内節
(黒質 網様部でも同様)の
神経活動を上昇させる
方向に作用し、最終的に
視床および大脳皮質の活動性を抑制することに
なります。(神経伝達物質ループ、バランス異常
項目を参照)。つまり、
パーキンソン病では、淡蒼球 内節や黒質 網様部における神経活動の亢進によって、視床および大脳皮質に対する脱抑制が不十分になるため、運動を円滑に発現できなくなり、無動症状を呈すると解釈できます。
前脳基底部の機構に基づきパーキンソン病の記憶の
減衰、認知機能の障害を説明すると、アセチルコリン
起始核である前脳基底部の 中隔核 → 視床・帯状回
→ 海馬。マイネルト基底核 → 大脳皮質で。アセチル
コリンが減少する事で、認知機能・記憶障害が
発症。
また、パーキンソン病患者では、腸管におけるアウエ
ルバッハ神経叢の変性も初期から認められている。
アウエルバッハ神経叢とは:
腸管神経の一部、消化管の縦走筋層と輪走筋層との間に
位置し、このふたつの筋層に運動刺激を粘膜に分泌刺激。
アウエルバッハ神経叢は交感神経線維と副交感神経線維
の両方を有する。
この神経叢は延髄の迷走神経三角から伸びており、この
神経叢は食道、胃、小腸と大腸の筋肉内にみられる。
大脳基底核は小脳とともに、随意運動の発現と制御
に重要な役割を担う高次中枢として知られています。
大脳基底核は大別すると、
線条体、淡蒼球、黒質、視床下核
の4つの神経核から成り、さらに、線条体(せんじょうたい)は尾状核(びじょうかく)と被穀(ひかく)
に、淡蒼球(たんそうきゅう)は外節と内節、黒質は緻密部(ちみつぶ)と網様部(もうようぶ)
に分類されます。
大脳基底核には、大脳皮質の広い領域から、
運動に直接関与した情報だけでなく、感覚や情動、あるいは認知機能に関する情報など、
運動発現に影響を与えるさまざまな情報が入力されます。
これらの情報は
大脳基底核で統合・処理されたのち、運動内容を決定する信号として、最終的には前頭葉の運動野から脊髄に出力されますが、その際、大脳基底核は、大脳皮質、特に運動野や前頭前野が分布する前頭葉との間で
ループ回路が形成されています。
つまり、前頭葉から出力された運動情報や認知情報は、大脳基底核を巡り、その大部分が視床(ししょう)を介して再び前頭葉に戻るようなループ回路の中を伝達されるわけです。
直接路と間接路 神経回路には、入力部である線条体と出力部である淡蒼球内節や黒質網様部の間を直接つなぐ
「直接路」と、介在部である淡蒼球外節と視床下核を経由して両者を間接的につなぐ
「間接路」の2つが存在すると考えられています。
直接路と間接路を形成する線条体の細胞はGABA(用語集参照)を有する抑制性であり、大脳基底核の修復部である黒質緻密部からドーパミン入力を受け、それぞれ興奮もしくは抑制の相反する神経活動を示します。
つまり、
直接路を形成する細胞にはD1受容体を介してドーパミン入力が興奮性に作用するに対して、
間接路を形成する細胞にはD2受容体を介してドーパミン入力が抑制性に作用します。
また、淡蒼球内節と黒質-網様部もGABAを有する抑制性の細胞で構成されており、常に活発に活動しているため、そのターゲットである視床の神経活動を持続的に抑制しています。
前頭葉からの入力により線条体の細胞が興奮すると、直接路を介して淡蒼球内節や黒質網様部の神経活動が抑制され、一時的に視床に対する抑制が取り除かれる「脱抑制」と言う現象が起こります。これにより視床および前頭葉の活動が亢進(こうしん)し、結果的に必要な運動が惹起(じゃっき)されると考えられます。
他方、間接路については、淡蒼球外節から視床下核への神経連絡がGABAによる抑制性で、視床下核から淡蒼球内節や黒質網様部への神経連絡がグルタミン酸による興奮性であるため、視床および前頭葉にたいして直接路とは逆の効果をもたらすと事に成ります。視床下核から淡蒼球への連絡と線条体から淡蒼球への連絡を細胞レベルで比較すると、前者が淡蒼球の比較的広い領域をカバーするのに対し、後者は狭い領域に限局する事が知られています。直接路が狭い領域への脱抑制効果をおして特定の運動発現に寄与するのに対し、間接路は、その周辺領域への抑制効果により、それ以外の不必要な運動の抑止に貢献していると考えられています。
⑥進行を遅らせられるか?
初・中・末期の症状
現在用いられている治療・療法では、ADL(日常生活動作)の低下、QOL(快適な生活環境)の改善ができますが、パーキンソン病の主たる原因であるドーパミン神経の変性に対しては遅らせられる治療は有りません。
治療開始時期に改善した症状も、その後、神経変性の進行に伴い強く成っていきます。
神経の変性を抑制し症状を悪化させない治療、薬は現在、確認されていません。
食べ物(異常蛋白質の凝集阻害)。
レヴィ小体(Lewy小体)は、神経変性疾患(パーキンソン病、Lewy小体認知症)の原因と示唆されており、アルファーシヌクレイン蛋白質の凝集によりLewy小体が出来ることが知られています。
Lewy小体の原因であるα-シヌクレインの凝集を阻害する物質には、
クミンアルデヒド(Cuminaldehyde)が有効とされています。ユーカリ、ミルラ、カシア、クミンなどに含まれて、また、納豆、パセリ、豆腐、緑茶、ピーマン、パパイヤなどに含まれる酸化還元補酵素の
ピロロキノリンキノン
(Pyrroloquinoline quinone、PQQ)ビタミンB群も α-シヌクレインの凝集や蓄積が抑えられるとの研究発表があります。
また、
アルツハイマー病に中鎖脂肪酸を摂取する事で症状が改善されたとの報告があります。
中鎖脂肪酸は、
ココナッツ、パームフルーツ、牛乳、パーム油、ヤシ油(ココナッツオイル)などにも多く含まれています。 中鎖脂肪酸100%の油は、手術後の流動食や未熟児のエネルギー補給などに長年利用されています。
食物の紹介は、” 栄養と食材 ” ページに紹介しています。
⑦孤発性パーキンソン病の
進行・初・中・末期の主な出現症状
レヴィ小体(リン酸化されたα-シヌクレイン蛋白質の凝集 )
の細胞内封入体の蓄積が増えると共に進み、運動、
非運動機能の障害が増大。
パーキンソン病
(Parkinson's disease:PD)
↓
パーキンソン病に認知症が伴う
(Parkinson's with dementia:PDD )
↓
パーキンソン病とレヴィ小体認知症
(dementia with Lewy bodes:DLB )
と進行すると示唆されています。
初期の症状:
・手足の関節が動かしにくい。
・安静時に振戦(ふるえ)、手・足の片側より起りやがて
両方に。
・歩行障害、歩き出す時に初めの1歩が踏み出せなくな
る。歩幅は狭い。方向転換が出来にくい。
・動作緩慢(筋固縮による)、日常生活の動作が遅くな
り、衣類の着脱・食事・寝がえりなど、すべての動作
に支障をきたす。
中期の症状:
・姿勢異常、前屈みになり、手足の指が反れる事もある。
・幻覚(幻視・幻聴)、うつ症状、記憶力の低下、不眠
(薬の副作用の場合がある)
・嚥下障害・構音・流涎、食べ物を飲み込みにくい、
ろれつが回らない、滑舌が悪い、よだれが出る。
(薬の副作用の場合がある)
・顔の表情が固くなる、瞼が自然に下がってくる。
末期の症状:
・言語障害、声が小さくなる、早口になる。
・認知症、記憶力、注意力の低下、考えがまとまらない。
健常者に比べ認知症になるリスクは5~6倍。
・寝たっきりで、移動は車椅子。
注)パーキンソン病患者により出現症状、進行は異なります
ので目安として記載しました。